2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

昔書いていた詩(14) 「序曲」 「鉈」 「睡眠中毒」

序曲 真昼の工事者よ 地表に アスファルトの膏薬を塗れ 偽りの体制を 引っ剥がせ 思えば 故郷の村祭りの 独白 萎縮した男根を肴に 乾杯 女を食らい 曲がった小指 気がつけば 雨 乗りそこねた男の 足先の 固く冷えた 地表 よろめいて吐いて 闇 無限でなくて …

今書いている詩(14) 「愛と不安(2)」

「不安と愛(2)」 打ち消しても 打ち消しても 振り払っても 振り払っても 拭っても 拭っても 不安が沸いてくるあなた 不安が支配する交差点の 赤信号を無視するのは 危険ですよ 愛が占領している交差点で 足踏みしているあなた 青信号ですよ 素直にわたり…

昔書いていた詩(13) 「乾燥」 「交通戦争」 「成長」

乾燥 カルロスの歌声 軽い車輪の響き 新鮮な朝の誕生 セルビア人は オアシスの森を 駆け抜ける 弟のパウロは まだ寝ている 駱駝も寝ている 交通戦争 朝 路上に横たわる 一匹の犬 路上に投げ出された 一枚の雑巾 夕 路上に塵 一匹の犬が 今日 消滅した 成長 …

今書いている詩(13)  「不安と愛」

不安と愛 あなたは不安という 苦い酒を飲みすぎたのでは ありませんか 愛という熟れ過ぎた 林檎を食べ過ぎたのでは ありませんか 今のあなたは心の 消化不良ですよ 今の私は迷医師ですから 不安も愛も直せる 特効薬を調合出来ますが 仕方ないですね あなたに…

昔書いていた詩(12) 「単独行」 「山の向こう」 「訪問者」

単独行 凍った道をあるいている 風が岩笛を吹き 星は真上にいる 北の岩棚で 月が宴を見ていた 山男が去ってしまえば 冬の道はひとりだ 凍りついた風がその上を 岩笛を吹きながら 通り過ぎるだけだ 山の向こう あのあたりに山があれば 季節は独りで 廻る風車 …

今書いている詩(12) 「明日の献立」

明日の献立 明日がこないと嘆いている人はいませんか 希望がないと嘆いている人はいませんか 未来がないと嘆いている人はいませんか ジグソーパズルの一つが無くなって 絵が未完成と考え込んでいるあなた 智慧の輪が解けないと考え込んでいるあなた そんなあ…

昔書いていた詩(11) 「神無月」 「黄昏」

神無月 山の主のいない月 稜線で帰り道を 探している男が 北の岩棚で登って来た 男と出会う 男は交代を告げ 鍵を腰から抜いて 登ってゆく ナナカマドの実は まだ青いが いわひばりの 飛び跳ねている 南の尾根道で 石ころは一日中 蹲って寝ている 熊笹をかき…

今書いている詩(11) 「運転手」

運転手 立ち止っているひと 座り込んでいるひと 歩るいているひと 悩みながらも 悲しみながらも 笑いながらも あなたはあなたで わたしはわたしです 考えが違っても 同じ人間です 同じ空気を吸ってます 同じ時間を生きてます だから 感じ合おうね そして 愛…

昔書いていた詩(10) 「空虚」 「早朝」

空虚 フィルム会社の煙突は 九月の風に揺られてる 年老いたボイラーマンが窯口に 夏の廃棄物を投げ込む 空に拡がる白煙の中を クジャクが飛ぶ 街角を曲がった屑拾いが 今 秋に気づいた 早朝 カラビナに繋がっていた秋が 岩場のハーケンと共に抜ける 切れなか…

今書いている詩(10) 「娘よ」

娘よ お父さんが幸せに思うのは 2階で君がテレビを見ながら 大笑いをしている声を聞くとき 風呂場で君が唄う 調子っぱずれな 歌声を聴くとき 大声で友達と携帯で 話してる君は幸せかい だから 笑おうね 唄おうね 話そうね 脳天気な君と 来年になると 君の声…

昔書いていた詩(9) 「非現実」 「漂流者」 「雨」 「空想」

非現実 ほんとうに登りたい階段があるなら 死刑囚にとつて 十四段目はあの世です 塩化ビニール製のボタンのひと押し 執行人についていえば 私でなければ貴女です 地震探知機の設計図は 古ナマズの腹の中 月に人が立っていたとしても 神話の書き換えは私がや…

今書いている詩(9) 「菜園の仏陀」

菜園の仏陀 釈迦の出家の動機は幼少の頃に田畑の虫を ついばむ鳥を見たことによると言われる 朝 秋の彼岸に太郎さんは 自宅の菜園を耕します ミミズが掘り起こされます プランターの土の中には カブトムシの幼虫がいました 大根と冬菜 プランターには 早取り…

昔書いていた詩(8) 「線路工夫」 「尾瀬にて」 「子守唄」 「記憶」

線路工夫 新品のレールは錆びている ここと ここと ここを とりかえろ はい いやそうですね ここと ここと ここを とりかえます 古いレールは光っている ここと ここと ここを とりかえろ はい いやそうですね ここと ここと ここを とりかえます 君は寝てい…

今書いている詩(8) 「光明」

光明 太郎さんと洋子さんの夫婦は 暗く長い眠れぬ夜を過ごしました その理由は洋子さんの会社の 健康診断で胸にシコリがあるから 婦人科で診てもらいなさいと 言われたからです 「乳癌かも知れない どうしょう」 二人して悩みました 太郎さんが会社から帰る…

今書いている詩(7) 「義母(貞子)」

義母(貞子) 88歳の義母が泊まりに来ているときに 娘の彼氏が背広で挨拶に来た 「同棲を許してください」と言う 本も買って何度も練習したらしい 「嬉しくて泣くのはいいが 悲しくて泣かせないでくれ」 私はそれだけを言った 二度目の言葉だった 耳が遠く名…

昔書いていた詩(7) 「流刑者」

流刑者 夕陽が没すると 原野の流刑地で 老人が目覚める 天空から一本の縄が スルスルと降りてくる 老人はよじ登る なんとかこの境遇を 脱出しなければなりませぬ 真昼には地上を 金色の一角獣が疾走し 黄金の糞をするから 朝日は老人にとって憎悪そのもの 縄…

昔書いていた詩(6) 「検札者」

検札者 不眠症の都会の地中を 鋼鉄の電車が走り続けます 座席の女は 身動きもせず 犯されたセックスを 開いています 白黒の切符には 日付がないから 女は眠りたくても 眠れない 眠りたくても 眠れない女と 止まりたくても 止まれない電車 『哲学者の考えには…

今書いている詩(6) 「父(あの日あの時)」

父 (あの日あの時) 「たろうはこの長い四角の皿にカボチャのスープを 入れてスプーンで叩くとニコニコしながら這ってきた」 姉と私は双子であったので父は配給のミルクを 怒鳴り合いの喧嘩をしながらもらってきた 古井戸のそばで水を汲んでいる父に 「ぱっぱ…

昔書いていた詩(5) 「起床」 「疾走」 「訪問者」

起床 夢の中で飛び跳ねる僕 朝起きるとただの人 学校には中退が有るけど 人生にはそれがない 何の欲望も失うと 卵ガラのような 壊れた日々の始まり 疾走 鋼の筋肉を身に纏った若者よ 素晴らしき時代を生きているか オートバイを自在に駆使して 大地を疾走し…

今書いている詩(5) 「たろうさんのランドセル」

たろうくんのランドセル たろうくんは気が気でない 明日は入学日だというのに ランドセルがないのだ 双子の姉の分と二ついる どうなるのだろうと思いながら寝ます 朝目覚めるとランドセルが 二つ置いてありました 縁側の小麦の入っていた 一斗缶がなくなって…

昔書いていた詩(4)   「夏の終わりに」 「避難小屋」 「眠り」

夏の終わり 山の主の出かけてしまった月 葉っぱの中をうろついていた夏が ナナカマドの茂みに もう一つの季節の足跡を見つける 丸く擦れて 重なって寝ている 石ころの道を 夏中 光の 孫たちは 飛び跳ねていた 熊笹をかき分けて 山男が沈んでいった道を 幾日…

今書いている詩(4) 「たろうくんのニワトリ」

たろうくんのニワトリ 学校から帰ってくると たろうくんをニワトリが出迎えます 足のすねをつつくのです たろうくんはお父さんに 「いつも足をつつかれて痛くて嫌だよ」と 泣きべそをかきながら言いました 次の日にニワトリはいなくなりました たろうくんの…

昔書いていた詩(3) 「大地」

大地 道を歩いていると 大地の硬さが28cmの足全体に伝わる 駅の改札口に杏子色の制服の 女学生が立ち止まっている 薄い財布の中身は拾円銅貨で 発車のベルと一緒に僕の一日が始まる いつもの駅で会いたい女に出会う 通勤電車は満員で 僕の体はマイナスイ…

今書いている詩(3) 「たろうくんの帽子」

「たろうくんの帽子」 たろうくんの家は貧乏で お母さんは東京のお義兄さんに お金を借りにゆくのです 嫌な用件で出かけるのも たろうくんと一緒なら嬉しいのです 「この子が大きくなったなら」と いつも思っています 浅川駅の改札口から東京行きの ホームに…

昔書いていた詩(2) 「的」

的 春が洋弓の弦を離れる矢のように やって来ても 私は独り佇んでいる 未来行きの無人駅の改札口に そっと切符を出す しまった私は行き先を間違えたかと 考えてみるが遅い 空気の抜けたバレーボールが ゆっくりと転がるそして 貴女はいつも二人連だけど 私は…

今書いている詩(2) 「待つ」

「待つ」 たろうくんは立ち続けている 宮ノ前の鳥居の傍の 八幡神社と石柱に彫られた 処でじっと待つている 夕闇が近づく頃 遠くにお母さんの姿が浮かぶ たろうくんの顔に嬉しさが広がる お母さんは浅川駅から2キロの 山道を不自由な足を 引きずりながら帰…

昔書いていた詩(1) 「面接者」

面接者 天井の蛍光灯は片眼 瞬きしている 部屋には50サイクルの送風機 壁際のスイッチ 沈黙を続ける このビニールのテーブルかけの 蛇の目模様は記憶にあります 遠い昔石ころのように投擲された 時のボール その落下点で 繰り返し行われた葬式の予行練習 …

今書いている詩(1) 「すくう」

「すくう」 池の辺に立った弥陀は 水を漉くってハスに注いだ 後ろの観音に 「私には誓願があるよ」と囁く 観音は微笑んで頷く 池の其処此処で ハスの花がポンと 音を発てて咲いた たろうくんは池の氷を 小さな手で割って顔を洗う 寒い日も暑い日も 前に住む…