今書いている詩(7) 「義母(貞子)」

   義母(貞子)

 

 

 88歳の義母が泊まりに来ているときに

 

 娘の彼氏が背広で挨拶に来た

 

 「同棲を許してください」と言う

 

 本も買って何度も練習したらしい

 

 「嬉しくて泣くのはいいが 

 

  悲しくて泣かせないでくれ」

 

 私はそれだけを言った 

 

 二度目の言葉だった

 

 

 

 耳が遠く名前も思い出せない義母は

 

 お膳に畏まっている私たちの様子を 

 

 じっと見ている

 

 彼氏が帰ったあとで娘は

 

 筆談で祖母に説明する

 

 

 

 北里大学病院で帝王切開して生まれてきた

 

 娘はキャスター付きの鉄の箱に入っていた

 

 運んできた看護婦さんがフタを開ける

 

 「ありゃまあ 赤い子だねぇ~」と私を見て

 

 嬉しそうに笑う 初めての女の孫なのだ

 

 清水洋子ベイビーと小さな腕に

 

 名札が付いている

 

 

 

 あれから26年嬉しい日々が続いている

 

 自分の家に帰った義母は隣に住んでいる娘に

 

 興奮しながら話を作り上げて話しているらしい

 

 「話は10分の一にして聞いてね」と妻が電話で言う

 

 

 

 「ああ とうとう出てゆく日が来るのか」

 

 独白する私がいる