今書いている詩(3) 「たろうくんの帽子」

「たろうくんの帽子」

 
 たろうくんの家は貧乏で
 お母さんは東京のお義兄さんに
 お金を借りにゆくのです
 嫌な用件で出かけるのも
 たろうくんと一緒なら嬉しいのです
 「この子が大きくなったなら」と
 いつも思っています
 
 浅川駅の改札口から東京行きの
 ホームに向かうところで
 たろうくんはお母さんから
 帽子を渡されました
 夜中に縫った手製の帽子でした
 たろうくんは不満です
 既製品の帽子がほしかったのです
 たろうくんにはみすぼらしく思えたのです
 「こんな帽子なんて」と思いました
 それにたろうくんは学校に行っているのに
 お金を払って乗らないのです
 たろうくんは仕方なく帽子を被ります
 「かわいい帽子ね」と女の人が
 通りながら言いました
 
 たろうくんには帽子を被らなくては
 ならない理由があるのです
 たろうくんがハイハイを始めた頃に
 囲炉裏に落ちて頭に火傷をしたのです
 たろうくんの帽子はその頭の傷を隠すためなのです
 
 太郎君は定時制高校に入って
 生徒会長にもなりました
 髪は硬くて立っていましたが気にならなくなりました
 髪に白髪が混じった頃になると細くなり髪の毛は寝て
 太郎さんの傷は隠れました
 それに髪の毛がふさふさで若く見えます
 でも髪の分け方が人と違うのです
 
 「あなたに印をつけたのはわたしですよ あなたが
 高慢な人間にならないための選択をさせたのです」
 リビングルームから葉の落ち始めた木々を見ながら
 本当の理由に気がついた太郎さんでした