今書いている詩(6) 「父(あの日あの時)」

父 (あの日あの時)

 
 「たろうはこの長い四角の皿にカボチャのスープを
  入れてスプーンで叩くとニコニコしながら這ってきた」
 
 姉と私は双子であったので父は配給のミルクを
 怒鳴り合いの喧嘩をしながらもらってきた
 
 古井戸のそばで水を汲んでいる父に
 「ぱっぱちいない(タバコ吸いなさい)」と姉が何度も言う
 
 太郎君はお父さんの自転車に乗りたかった
 お父さんは貸してくれなかった
 
 太郎君とお父さんはバイクで大垂水峠にフキを取りに行った
 その帰りに見晴らしの良い木の枝で男が首を吊っていた
 
 高尾山の森のお父さんだけが知っている秘密の場所に
 椎茸を取りに行った大収穫でした
 
 太郎さんから見ると自分勝手で女好きで競輪にのめりこみ
 何故か共産党を支持し偏った宗教心が強いお父さんです
 
 「太郎 救命丸 飲んだらだめかな」遠慮がちに言います
 「駄目だよ 病院の薬があるだろう」太郎さんは素っ気なく答えます
 この数日後にお父さんは亡くなりました 90歳でした
 奥さんに「あのときに全部飲んでいいよと言えなかったのか 
 心残りだよ」と後で何度も言いました
 
 「貴方も最近はお父さんに声も考え方も似てきたんじゃない」
 「親子だから似てくるよ」と言う嬉しい私がいます
 父よ貴方は反面教師ばかりではありませんでした
 
 「死んだらお前の守護霊になって何時も守っているからな」
 「お父さんそれじゃあ私の肩が重すぎるわよ」と娘が言う
 親父は私の守護霊になって守ってくれているに違いないと
 確信する還暦を超えて65歳に近づいた太郎さんです