昔書いていた詩(10) 「空虚」 「早朝」

空虚

 フィルム会社の煙突は 
 九月の風に揺られてる

 年老いたボイラーマンが窯口に
 夏の廃棄物を投げ込む

 空に拡がる白煙の中を 
 クジャクが飛ぶ

 街角を曲がった屑拾いが 
 今 秋に気づいた


    早朝

 カラビナに繋がっていた秋が 
 岩場のハーケンと共に抜ける
 
 切れなかった ロープ
 街にクライマーが帰る

 季節風の吹き出しは
 夜空の星の瞬きと共に
 雪を運んでくる

 その下で道票は 眠っている
 雪ぴの張り出しが止まる朝
 風が静かに逆転する

 無人小屋に火が灯る
 麓で誰かが 
 おおあくびをする

 春が来たんだ
 物置の山靴は 
 まだ眠っている