昔書いていた詩(12) 「単独行」 「山の向こう」 「訪問者」

単独行

 凍った道をあるいている
 風が岩笛を吹き 
星は真上にいる

 北の岩棚で 
月が宴を見ていた
 山男が去ってしまえば
 冬の道はひとりだ
 
 凍りついた風がその上を 
 岩笛を吹きながら 
通り過ぎるだけだ


    山の向こう

 あのあたりに
山があれば
 季節は独りで 
廻る風車

 池と林があります
 原始の生殖は 
岩苔の群れ

 そして今は白い季節
 閉ざされた 
都会にいるのは
 私です


    訪問者

 透明な秋の 
ブナ林の鳥の
 鳴き声の鋭さ

 岩肌にシワを刻む 
光のナイフが 
 谷間の訪問者を
突き刺す

 夜は尾根を 
降りてくる
 訪問者の燃やす炎は 
 煙となり闇の中に吸収される

 落ち葉は風に舞ってゆく
 暗闇の中に訪問者の顔が
 炎に歪んだ