昔書いていた詩(11) 「神無月」 「黄昏」

神無月

 山の主のいない月
 稜線で帰り道を 
 探している男が
 北の岩棚で登って来た 
 男と出会う

 男は交代を告げ 
 鍵を腰から抜いて
 登ってゆく

 ナナカマドの実は 
 まだ青いが
 いわひばりの 
 飛び跳ねている
 南の尾根道で 
 石ころは一日中 
 蹲って寝ている

 熊笹をかき分けて 
 男は足早に
 麓に降りてゆく


    黄昏
    
 夕暮れに男は 
 オオカミのような
 風の叫びを 
 山頂で聞いた

 男の背中で 
 夕陽が裂け
 こころの稜線から 
 記憶の谷間に
 スローモ―ション画像のように 
 落下する

 赤銅色の岩肌と 
 茜に染まった天空に
 星が瞬く
 
 セレモニーの終幕に 
 男は闇夜に自分を放り投げる

 無人小屋にクラシックの 
 交響曲の響き
 ローソクが深呼吸するほどの 
 静寂