昔書いていた詩(9) 「非現実」 「漂流者」 「雨」 「空想」

    非現実

 ほんとうに登りたい階段があるなら 
 死刑囚にとつて 
 十四段目はあの世です

 塩化ビニール製のボタンのひと押し
 執行人についていえば 
 私でなければ貴女です

 地震探知機の設計図は 
 古ナマズの腹の中
 月に人が立っていたとしても 
 神話の書き換えは私がやります

 銅線をハンダづけするように 
 簡単にやられたら困るので
 その前に貴女のことが是非知りたい

    漂流者

 山頂に赤い手袋を落とし
 その頂を通過した私の記憶

 風化した花崗岩の 
 白砂を踏みながら
 男がやってくる
 
 その左手に赤い手袋
 切断された記憶は 
 銅板画に似て
 岩場からスルスルと 
 下降する男とザイル

 時が過ぎ私のザイルも 
 切れました


    雨

 夢想者の 眠りに 長雨
 骨なしの 雨傘

 不眠患者の 夜明けに
 黒鳥の 羽ばたき

 規格外れの 男には 手錠
 ああ 今日もまた 
 終わりのない 戦が始まる


    空想

 或日 街から スズメが いなくなる
 或日 森から セミが いなくなる
 或日 娘が 女に なる
 或日 それはジャングルで
 銀の フライパンを叩く
 ロビンソンクルーソーに 出あう日