昔書いていた詩(98) 「朝」

    朝
 
 産声を上げない 子牛の生まれた朝に
 U型のフィルターで囲まれた
 光線の束が 栗の木を襲い
 秋の奇型児を 照らしているのだ
 
 とてつもない 欠伸の連続と
 女の 不連続な愛
 そんな時刻に 花火職人は
 2.5号玉を 打ち上げる
 それが 好きだというのではない
 仕事だから 仕方がないという顔で


 「ねえ貴方 今日 何があるのかしら
 何かありそうな気がするわ あたし」
 「いや今日は 運動会さ」
 俺は言う 空を見上げる


 運動会へ向かう 女子中学生の
 胸の膨らみを 計量器に載せて
 或日 俺が ニュートンの 
 林檎を思い浮かべたように
 
 「俺は 八百屋がいいんだ」
 「そうね 貴方には 似合っているわ」
 首を傾けて 女が言う 笑う
 「でもね貴方には…」そう女が言いかけた時
 俺は 気づくのだ
 スズメは啼くが 蝉はいない 秋だと