昔書いていた詩(74) 「夜明け」 「乗客」

夜明け

 
 夜の創造主が
 行き交う男と女の
 影を演出する
 見知らぬ街の
 水銀灯が
 闇の壁を貫く
 
 たった今 停車場の
 階段を登るのは 七面鳥
 角材とヘルメットの
 武装集団が 黙々と行く
 
 ああ 高速道路の橋桁にも
 地下鉄の手すりにも
 夜明けはない
 
 私を追い越した風が
 頬に風紋を残して消えた
 その暖かさと 微かな灯りが
 そっと心に刻まれる
 
 
    乗客
 
 ポスターの写真から抜け出して
 隣の席に貴女は腰掛けましたね
 
 満員の通勤電車は喘ぎ喘ぎ進む
 満腹でもう食べられない
 
 たった今 其処にいた乗客が
 貴女を残して 総て消えてしまいましたが
 隣にいるのは僕ですよ
 
 貴女の顔の中の優しさが
 消えて行くように
 深い憂いに沈む貴女の眉は
 どうしたのですか
 
 僕は今 貴女の隣にいます
 たった独りの 貴女の隣にいます