昔書いていた詩(38) 「冬景色」 「けもの」 「フエルト人の神話」

   冬景色

 木立を震わせて
 風が吹き抜けるが
 枝にはそよぐ一枚の葉もない

 林には明るい日差しが注ぐが
 木々は眠っている
 目前に展開する
 静かな眺め
 灰色の風景よ

 天上の何処かに
 地上の何処かに
 明るい光と水があれば
 それで生き物は十分です
 人間だけがモグラのような
 暗い世界にいるのです


    けもの

 あなたが 林の中で
 埋もれた 柔らかい 
 けものの足跡を 見つけたら
 木立を縫って
 ルッ ルッ と舞い落ちる
 銀色の 粉雪の 季節です

 その時、貴方は
 新雪のラッセル中か 
 休憩中かも知れませんが
 それでもけもの達の 
 挨拶に答えて下さい
 山男ですから


    フエルト人の神話

 真紅の夕暮れは 膨張した
 丸い太陽を 浮かび上がらせる
 墳丘の羨道を通り 石の割れ目から
 死者は空白の 時間に蘇える

 それは、精霊たちの 目覚め
 フエルト人は 考えた
 災いも 悲しみも 喜びも
 彼らの仕業だと
 玄室に一杯の 魔よけの 印を刻んだ
 大地には石の テーブルを設え
 裸の女を 生け贄として供えた

 紺碧の朝には 黒いカラスの
 合唱で 世界が変わると 信じていた
 フエルト人はそんな国に住んでいた
 僕の妄想だ