昔書いていた詩(33) 「窓」 「さよなら」 「魚の日」 「月夜峰」

   窓

 開いている 窓の向こうに
 闇が続いている
 僕らの 宴会は
 華やかに 進んでいるのに
 僕は 目をつぶって 酒をし流し込む

 ひとりひとりの 飢えと渇きが 麻痺するまで 
 昨日までの 僕が今までの僕で 
 明日の僕が  解らなく迄 飲むんだ

 宴会場を 片づける女が
 窓を閉める頃
 僕らは人生の 曲がり角で
 彷徨っている


    「さようなら」

 幸福の留め金を 貴女の 
 しなやかな左手で 外された僕は
 貴女の姿が 闇に紛れてしまうまで
 引き絞った 弓のように
 息を殺している

 僕に訪れた 幸せは
 貴女の不幸と 入れ替わって
 僕の「さようなら」は
 闇に 吸い込まれてしまう


    魚の日

 僕が子供の頃に 釣った魚の 夢を見るんだ
 投げ込まれた 井戸の底で 
 魚は黒く育ち 水位が上がると 
 グルグル泳いでいたっけ

 僕らが使かっていた井戸は 大家のもので
 家は親父が建てた 掘立小屋だ
 もちろん土地は 神主のもの

 或日、高速道路建設が 舞い込み
 僕らは 故郷を離れたが そうでもなかったら
 鋳掛屋に見放された 鍋だ

 都会の 団地の 箱の中に住む
 僕は 魚も井戸も忘れて
 空中に浮かんでいる

 今、僕の 口に懸っている
 釣針が 僕の夢を 萎ませる


    月夜峯

 丘陵の上に 女子大の校舎が建ち
 昔の砦跡はないが 春のパステル画の
 ナラとクヌギの 林が残った

 絵にしたいのだが 今の僕は
 血ぬられた 画布を持つているから 盲目だ
 醜悪な所に 咲く花が
 美しいように 丘陵は
 腐食土の 盛り上がり

 今日も、体育の授業に 汗を流す
 女学生が月経を 校庭に灌ぐから
 片隅のテニスコートで カルコートを播く
 気のいい用務員は 眩しそうに見ている
 (僕の知り合いだ)

 秋になると 運動会がある
 女学生は 林の中に潜んでいる男に 
 恥垢を なめさせるから
 生まれる赤子は 僕と同じ道を辿る