昔書いていた詩(100) 「夜」

 
 窓枠の外で
 眠りを妨げられた
 水銀灯が目醒める
 
 ベランダのテントが
 鉄骨だらけになる
 
 その下で85歳の
 老人が死んでいる
 
 皮を剥がれた 
 猫が ヨロヨロと あゆむ
 
 「祭りだ 祭りだ」と
 女達が台所で
 酒を飲みながら
 騒いでいる
 
 俺は 針の穴から
 夜の女を 覗く
 白金の触媒釜の中で
 ナショナルな呪文を
 唱える
 
 曲芸を忘れたゾウが 呟く
 「朝になれば 思い出すんだろうか」
 俺に聞く
 「朝になれば 未来も希望もあるのだろうか」
 俺は 答えられない
 
 糸車に 唇を巻かれ
 人差指で 逆転する
 朝を 数えている
 俺がいる