昔書いていた詩(75) 「細胞」 「木星」

     細胞

 

 

 時間を消しゴムで 簡単に

 

 消してしまった若者は

 

 彼の細胞の一つ一つから

 

 時間と云う怪物を 葬り去ってしまった

 

 

 

 白亜の太陽が 裏町の棺桶部屋に

 

 一条の光線を 差し込こむ朝

 

 眠りから覚めた 若者の視界に

 

 無限の時間が 広がっていた

 

 

 

 化石となった腕時計が

 

 昭和期の地層に重複して

 

 街角のショーウインドーに 

 

 飾られている

 

 

 

 駅の待合室で 

 

 時間という紐のついた

 

 能面の顔の貴女が

 

 若者の瞳を見つめている

 

 さあ 白蟻よ

 

 西へ 進め

 

 

 

 

 

    木星

 

 

 

 俺が時間の中を 歩くと 

 

 時間を 追い越してしまい

 

 俺は 過去と未来の

 

 襞のある 谷間に 落下して

 

 青い死を 迎える

 

 やがて 鳥が 飛び立つ

 

 俺は木星の

 

 惑星になっている