昔書いていた詩(71) 「扉」 「林道」

 
 夜明けの暗闇に
 音を忍ばせて
 窓を叩くのは誰だ
 夕焼けの闇から
 はろばろとやってきた
 客人よ
 お前の持参した持物を
 軒下に置くが良い
 街角に音楽があふれ
 木陰に若人は集う
 けれども もう何もない
 白茶けた俺の心
 銀色に輝く箱
 その中に秘められた 
 黄金の鍵
 ああ たとえそれが
 万能の象徴でも
 氷結した俺の心の
 扉は開かない
 
    林道
 
 山砂を踏んで 林道を 
 何処までも 何処までも 歩く
 梓山の 草むらに
 秋空を盗んだ
 花の列が続く
 山頂で待っていたのは
 不機嫌な紅葉と
 チェ―ンソーで
 切られた原始林
 緑の消えた尾根
 その向こうに
 別の世界が広がっている
 開拓部落の トタン屋根
 その刹那
 夢が消えてゆく