昔書いていた詩(37) 「残照」 「空蝉」

残照

 
 明日の糧を求めて
 自分を切り売りする
 生活よ「さようなら」
 
 山では時間が勝鬨をあげて
 乾杯するから
 麓に降りてゆく
 風よ
 満たされぬこの思いを
 仲間にも伝えておくれ
 
 此処では 過去も 未来も
 凝縮した岩の中だから
 ああ、夕陽が沈めば
 もうしぐ眠りに入る
 
 季節を飛び越えて
 風よ
 恋人に伝えておくれ
 北の山では
 静かな物語の始まり
 
 仰ぎみれば
 私の涙が雨の滴となり
 峰々に降り注ぐ
 
 山頂きでは貴女に
 お似合いのドレスを
 ライチョウのデザイナーが
 製作中ですよ
 
    空蝉
 
 僕は 夢見て 目覚める
 夢の 復習を してみる
 夢は僕に 粉ひき小屋の
 主を 連想させる
 
 祖父から 譲られた
 花崗岩の 臼に
 僕は 夢を 押し込む
 臼の中で 粉となった
 夢は 頭蓋骨の
 内側を 舐めて
 現実と同化する
 
 「意職よ 蘇えれ」と呟く
 水飴色の世界に
 いたんだと気がつく
 僕がいる