昔書いていた詩(34) 「予兆」 「勘違い」 「都会」


    予兆

 キャツチボールで外れた ボールが
 墓地の石塔にぶつかる
 日焼けした塔婆にもあたる

 ボールは 無心に飛び 打者は有心
 子供たちは自転車で ウロチョロしている

 キャチボールは会社の駐車場でやっているが
 内墓の跡に事務所を増築し その上にトイレを造った
 僕も当然使った それから会社は 不運続きで
 「会社は、ピサの斜塔だ」と言いながら
 投手の俺は不運を投げつける

 独善と欺瞞に満ちた バッタ―の社長は
 思いっきりボールを叩く
 「万歳」と俺は叫んで
 「明日のことなど 知るものか」と呟く


    勘違い

 かとが ハリとパリ はかとばか
 点と丸の違いで
 意味が異なってしまう
 出発点と終着点に
 大きな違いがあるのは
 僕らの人生みたいだ
 だが、死という命題だけが
 等しくやってくる


    都会

 暗いレバー色の 内臓に 
 潜ってゆく 地下鉄
 レールの 鈍い響きに
 斜めの重力が 加わると
 僕の過去は 引きづられ
 あの階段を 小走りに
 不安が 降りてくる

 ああ、そうだ 時は
 車体のように 区切られていないから
 僕らの 休息は 死なのだ

 僕の乗った地下鉄は 時刻表に載っていないから
 降車して 地下街を 歩いているうちに
 戦争が 始まり 終わる
 僕は永遠に とり残されてしまう