今書いている詩(352) 

   たろうさんの腕時計(2)

 母に40年前に
 買って貰った
 防水で自動巻の
 腕時計
 失業中でしたね
 今もです

 洋子さんが
 仏壇の引き出しから
 見つけました
 「えっバンドがついている」
 覚えがありません
 バンドがなくて
 裸のままだと
 思ってました

 もう一つの金張の腕時計の
 バンドを直したときに
 この腕時計のバンドも
 あつらえたのでしょうか
 少し忘れっぽくなってます
 急いで振ってみました
 動くのです
 「奇跡ですよ」

 懐かしい母の
 思い出の品です
 昔の青年の心に
 戻れるのか
 嵌めてみました

 長押の母の写真が
 心なしか微笑んでいます

 もう蛍光の文字や針も
 光りません
 一晩わたしの腕に
 嵌めて朝起きたら
 同化してました

 この腕時計の
 動力源は振動です
 「左腕を無理にフリフリ
  しています」