今書いている詩(343)

 「たろうさんの掛時計」

 今年の雨は
 急に降り 止む
 止むと虫が
 啼き出す秋です

 壁の掛時計は
 黙ってずれた時を
 刻んでいる

 ああ 時よ
 立ち止まって
 お前を巻き
 戻して欲しい

 この家ではお前が
 ご主人様
 わが物顔で
 こころまで占領している
 気がする

 電池がエネルギーの
 君たちは忠実な
 時の番人

 かって古いゼンマイ時計を
 巻いていた父もいない
 何処かで時の中を
 漂流しているのか
 連絡も無い

 昔 無謀にも
 時計を直そうとして
 ゼンマイが弾けた
 時が止まった

 それからそれから
 長い夜を眠り
 わたしは此処にいる
 独りで部屋の中を
 彷徨う

 時に愛想尽かされて
 白髪も増えた
 ツゲの櫛も欠けた
 鏡台の上で
 眠っている

 「洋子さん 椿油
  買っ下さいね」