今書いている詩(284)

たろうさんの夏

 セミ君よどうして
 夏に鳴くんだい
 標本になるのに
 夏が好きかい

 僕は標本用の
 注射器をいつも
 持っていた
 楽しく自分勝手に
 生きていた
 憐れを用意して
 なかったんだよ

 あれから50年を経ても
 ジージー ミンミン
 オーシンック カナカナ
 変わらない声を
 聞いているよ
 夏の終わりの夕暮れは
 寂しいね
 ヒグラシ君の
 最後の大合唱がね

 秋の抜けるような
 空に君たちが
 裏返しで
 アリさんが忙しい

 君たちの声が
 耳の奥で幻聴となって
 残っている

 わたしも黄昏れた
 老人だよ
 天に召された
 父母に会いたい
 夏でもあるよ