今書いている詩(270)

たろうさんの栗の木 (別れ)

 あの夏の暑い日だった
 隣の家へ伸びた
 電線を守るからと
 バケット車からてっぺんの
 枝先を切ってもらったが
 栗の木君ごめんね
 わたしが甘かった

 切り口からバイ菌に冒されて
 イガも萎んで次第に
 元気がなくなり
 いまは枝も枯れ落ち
 幹だけが立っている

 君は秋の収穫期には
 大きな実を付けて
 わたしを喜ばせてくれたね
 わたしはミシミシと音をたてる
 古い物置の屋根に怖々上り
 君の分身を拾った

 わたしの生まれた所にも
 二本の栗の木があったが
 中央高速が通るために切った
 君たちには受けいられない
 別れだったね
 ノコギリが泣いて重かった

 思い出もいっぱいあるよ
 君が枯れて秋の季節も陰った
 今は身体も重いが秋には
 山栗を拾いに行くよ

 子どもの時のように君を
 恐る 恐る 踏み 
 こう言うんだ
 「洋子さん 栗ご飯お願いします」