昔書いていた詩(104) 「冬に向かう男 」

   冬に向かう男

 

 

 フィルム会社の煙突

 

 その上で現像された秋が

 

 逆立ちすると 11月の

 

 空のスクリーンに 投影され

 

 ミズナラの林に 墜落し

 

 男を分娩する

 

 

 

 二重写しに 男と女を

 

 重複した 地質技師が

 

 アーケードの街を過ぎ

 

 ギクシャクと 歩きながら

 

 独白するそばで ジュラ紀の銀杏が 

 

 昔を思い 舞い始める

 

 

 

 12月 記憶の交差点で

 

 盲人が 左折した

 

 夏の軌跡に触れ

 

 発狂する

 

 

 

 男の眼が 寺院のドアを叩く

 

 ああ 煙突の上で

 

 定着した秋が

 

 まもなく トランペットの

 

 音階を持った 風の街で

 

 剥離して 煙突から 拡散する

 

 

 

 盲人も 技師も消え

 

 凍結した冬が 何処かで

 

 今年も誕生する

 

 

 

 男の靴だけが

 

 冬に向かって

 

 歩く