昔書いていた詩(76) 「犬」 「再生」

    犬
 
 野良犬が 大欠伸をしている街の午後
 小刻みに震える光の粒子は
 舗道の敷石に飛び散って
 捨て犬を覆い通行人の首筋まで
 薄黄色に染め始めた
 
 薄汚れたアーケードの下を
 モノラルな制服を装い
 碁石顔の女達の塊が
 嘴から紫紺の煙を吐き出してゆく
 
 ああ コンクリートの校門から
 制服の塊を吐き出すたびに
 本屋の棚の裂け目や
 パーラーのショーウインドーや
 電話ボックスの天井にまでも
 ジワジワとコールタールの光沢を
 放ちながら充満する香りが残っている
 
 白血球の食胞が
 希薄な大気の中で生き抜くために
 貪欲な生命のパルス波を発射して
 静かに深く男共を埋没させ
 三葉虫の化石へと変えてしまう夕暮れ
 
 制服を装った女共の塊は
 通りすがりの男共の心を
 全く素早く蕩かす片目のサインを送りつけ
 ドタドタトと歩いてゆくのだった
 
 
    再生
 
 俺が女を凝視する眼を喪失すると
 第3の目が女を描く
 カンバスの上で直線と曲線が交叉する
 素早く 幾何学者と物理学者が定理を与えると
 俺の角膜は再生する
 女達は網の目の時刻表を頼りに
 大移動を開始する
 すべての学者は東へ
 すべての女共は西へ