昔書いていた詩(70) 「若者」 「登山」

若者

 
 若者の瞳は虚ろだ
 蒸発した心
 仮面の衣裳
 暗い部屋の花束
 地下室の酒瓶に
 解剖室の水槽に
 死臭は漂う
 黒いカラスが
 コンクリートの
 地面に群がる
 暗紅色の夕陽が止まる
 プラスチックの心臓
 アカインキの血液
 偽りの営み
 真実と正義を
 消したのは誰だ
 薄汚れた着物
 若者は行方知れず
 夕闇の彼方へ
 創造主を求めて
 
    登山
 
 黄金の山へ
 黄金の仮面で
 俺は登る
 霧が山をつつまないうちに
 黄金の靴で
 時間を消せ
 右手に短剣を持て
 左手に聖書を持て
 孔雀を見つけたら
 聖書を開け
 その上に短剣をかざせ
 ああ 孔雀が啼くと
 背中の道が消える
 風が死臭で満ちたら
 谷底を見るな
 山頂ではお前たちの
 死人の狂宴
 稲妻が輝く
 黄金の山へ
 黄金の仮面で
 俺は登る