昔書いていた詩(32) 「肋間神経痛」 「嘆き」 「海のオイルフェンス」 「昇給通知」 「埋葬」

   肋間神経痛

 会社に出かける時刻になると
 俺の左胸が痛む
 取締役が外れて
 唯の営業課長だ 
 給料も安くなっちまった
 それで、 経営者と社員の サンドイッチだ

 ワンマン経営者の口癖は
 「好況よ、今日は、不況よ、さようなら」
 だから、鼻血も出ない

 倒産前の噂が忙しそうに 
 業界中を駆け巡って 
 社長の妻は 夜逃げする

 逃げたくても 出来ない俺
 いつそ、倒産してしまえば楽なのに
 何処からか 金を工面して来る
 社長の凄腕 倒れるのは 裏の 墓石ばかり

 「在庫は少なく 売上あげろ」が口癖
 どんぶり勘定 金数え ニ重帳簿
 棚卸の日に会社を 社員が口で棚卸して

 俺は、今日も又、会社に出かける時刻になると
 左胸が痛む


    嘆き

 ああ 都会の
 石塀に 囲まれた
 狭隘な 墓地に
 埋葬された 僕は
 コンクリートの 石室で
 時の流れに晒されて
 大地に 還元されることなく
 溜まり水に 浸かりながら
 骨壷の中で 仮眠せねばならぬのか

 だから、僕の慟哭は
 怨念となり 幾重にも重複し
 僕の執念だけが 抜け出し
 都会に黒雨を 降らすだろう

 そして、僕は 現世に
 黄泉がえり 輪廻する

 僕の 抜け殻は いつまでも 残り
 都会の 黒雨も 永遠に 降り続く
 だから、僕を癒やす 呪文はいらない
 貴女の 温もりだけが ほしい


    海のオイルフェンス

 西暦二千年の夕陽が 沈む日に
 恐怖は 憎悪に替り
 地上に降り立ち
 囲まれた 核基地の
 黄色いボタンを 僕が押す
 
 ああ、その時がきっとくる
 そして、僕が 投獄される 静かな海は
 巨大なスクラップ 工場へと繋がり
 汚染された カモメが
 遅れた八月の夏に 乱舞するだろう

 僕の罪科は 誰よりも重く 加速され
 僕も 貴女も 滅ぶ日を 迎える


    昇給通知

 ああ 僕の苦悩は
 何処まで 果てしないのか
 見上げれば 星が見えるはずなのに
 薄汚れた 都会の 片隅で
 鉛の分銅を 首からぶら下げた
 ピエロの仕草で 僕は歩く

 片足を失った犬が 空き地で
 吠え続ける 夜に
 田舎では忘れられた 映画の
 サイレントシーンが始まる

 ドーム型の体育館では 
 老人が 腕立て伏せを 繰り返す
 僕も昔の 流行り歌を 口ずさむ

 団地の床下で 糠味噌が
 腐っているのに 地球は廻っているから
 僕の苦悩も 細い針金の上で
 ジャイロ駒となって 廻っているに違いない
 僕は昨日 一枚の
 昇給通知を 貰いました


   埋葬

 子供のまんま  
 死んだ
 姉みたいに 
 貴女の 手で 
 僕を
 蒼茫の 大地に 
 遺棄して 下さい