昔書いていた詩(31) 「櫂」 「カメラマン」 「衝動」 「天日和」



 後悔ばかりの舟を漕ぐ 僕も貴女も
 未来を 限定されるから
 老人が 羨ましい

 僕が死ぬと 別の時代に 
 輪廻するだろう
 それが、遠い時代であれば 
 僕は 幸福でいられるが 
 記憶喪失は その代償

 僕の現世は 生活ごっこだったから
 僕の乗った舟の舵は どの方向に
 切られたか物知り顔の 老人も知らない

 だから、明日、僕は文房具屋にいって
 幾度でも 消せる 
 消しゴムを 買いに行くんだ


    カメラマン

 僕の目は カメラの眼
 ファインダーの中から
 貴女を 視姦する

 僕の 網膜に映った
 貴女の 横顔が
 どの子よりも 美しいので
 僕の シヤッターは
 瞬時に 押される

 今、僕は 印画紙に
 貴女を 定着させている
 浮き上がった 貴女を
 讃える 言葉の 比喩を 僕は知らない
 或日、僕の アルバムで
 褐色に変質した 貴女を見ました


    衝動

 黄金の光を放ち
 落下する 夕陽を
 捕まえようとして
 道路に飛び出し
 子供が死んだ

 運転手は 僕
 同じ夕陽を見ていた
 誰に罪が有ると言うのか

 子供は 未来を失い 
 僕は 自由を失う
 裁判官にも わかるまい


    天日和

 僕は 心の部屋に 鍵かけて
 又、独り 旅に出る
 それが僕の 宿命だから
 (鎌倉時代の 末期に 儀海と云う名の 旅の修行僧)

 胸の疼きは 部屋の軋みか
 摺りへつた スニーカーと
 ジーンズ姿で 行けば
 いつの日か 海辺の街角で
 少しだけ 希望が残った
 傷心の貴女と 出会うだろう

 そして、貴女の心の 扉を叩く
 涙が 微笑みに 変わる時
 振り向かないで 僕は行くんだ